胸焼けの原因と解消法 逆流性食道炎を自分で改善するには
食べ過ぎ・飲み過ぎで起きる胸焼けですが、最近は慢性的な逆流性食道炎を患う人が増えており、より多くの人が経験する症状となっています。
今回はその胸焼けについて、胸焼けになる原因と、自分でできる解消法をメインに、まとめてみたいと思います。
そもそも「胸焼け」とは?
胸焼けとは胸骨の後ろが焼けるように感じる症状で、胃酸が食道に逆流することで起こります。胃酸が逆流して炎症を起こす症状を胃食道逆流症(GERD)、または逆流性食道炎といい、逆流は起きけど炎症は見られない症状を非びらん性胃食道逆流症(NERD)といいます。
胃酸は食べ物を消化するために強酸性になっています。そのため、胃の内側は粘膜でガードされていて、胃酸によって傷つかないようになっているんですね。しかし食道にはそのような強い粘膜がないため、胃酸が逆流すると焼けてしまいます。
胸焼け以外にも、胃もたれ、胸や胃の痛み、「うぷっ」と胃酸が上がってくる感じ、吐き気、げっぷ、喉の違和感、慢性的な咳(せき)などを伴うときがあります。
胸焼けの仕組み
実際の動きを見ながらだと分かりやすいので、以下の動画をご覧ください。
食道(esophagus)と胃(stomach)をつなぐところに、下部食道括約筋(lower esophageal sphincter:LES)という筋肉があります。これは胃酸が逆流しないように「弁」の働きをしているのですが、この機能が低下して圧が下がり、弁がうまく閉じなくなってしまうことがあります。すると胃酸が食道に逆流して食道内が炎症を起こす、つまり胸焼けを起こしてしまいます。下部食道括約筋は、食事の内容、肥満、加齢、姿勢などが原因で働きが弱くなります。
他にも、胃酸の出過ぎや胃に圧力をかける姿勢なども、胃酸の逆流が起こりやすくなる原因になります。
胸焼けの原因と生活習慣改善による解消法
軽い胸焼けだったり、一時的な食べ過ぎ・飲み過ぎによる胸焼けであれば、生活習慣の工夫で解消できることがあります。
胸焼けを起こしやすい食べ物・飲み物を避ける・少なくする
大原らの全国調査による日本人の胸やけ・逆流性食道炎に関する疫学的検討、および「medicina(メディチーナ) 2013年 05月号 胃食道逆流症(GERD) “胸焼け”を診療する」を参考にすると、以下のようなものが特に胸焼けの原因になりやすいとしています。
・高脂肪食(てんぷらやとんかつなどの揚げ物、油物など)
・炭水化物(ご飯、パン、いも類、もちなど)
・高浸透圧食(ケーキ、あんこ、あずき、チョコレート、ココアなどの甘い物)
・香辛料
・アルコール
食道粘膜に刺激を与え、食道運動が低下する。下部食道括約筋の機能が落ちる。
・タバコ
下部食道括約筋の機能が落ちる。食道運動が低下する。だ液中の重炭酸濃度が低下し、酸に対する中和能力が落ちる。腹圧が上昇する。
・コーヒー
酸の分泌が増える。
他にも、消化が悪い物、冷たすぎる物、逆に熱すぎる物なども控えた方が無難です。
よく噛んで食べる(早食いをやめる)
ゆっくり噛んで、消化しやすくしてから飲み込むと負担が減ります。
食事は腹八分目におさえる
お腹一杯食べるとその分胃に負担がかかり、逆流しやすくなります。腹八分目で終わりにしておくといいです。
食後にガムを噛んで唾液を増やす
唾液には酸を中和する働きがあるので、唾液を飲み込むことで食道内の酸を洗い流し、食道がダメージを受けるのをおさえることができます。特に胃酸の分泌が増す食後には有効です。
食後すぐに横にならない
食後30分ほどは胃酸分泌が増えるため、横になるのはやめましょう。横になると胃の位置が食道よりも高くなり、逆流の原因になります。
寝る前に食べない
できるだけ胃を空にしてから横になりましょう。寝る4時間前までには食事を済ませておくと無難です。
枕で上半身に傾斜をつけて寝る
寝ているときに胸焼けが起こる場合は、逆流を防ぐために上半身に傾斜をつけて寝るという手もあります。高い枕と低い枕を組み合わせて段差を作り、上半身を坂道のようにすると、逆流が起きにくくなります。
食べ過ぎ・飲み過ぎた日の翌日は食事を抜く
食べ過ぎ・飲み過ぎってしまった次の日は、食事をいっそ何食か抜いてしまうと胸焼けを解消しやすいです。水分はできれば冷えた水ではなく、ぬるま湯やスポーツ飲料などで十分に補給します。もし食事をとるときは、できるだけ消化のよいものを選ぶようにします。
背中を丸めない
猫背や前かがみの姿勢になると、胃を圧迫して胃酸の逆流が起きやすくなります。
腹部を締め付けない格好をする
ベルトをきつく締めすぎるなどすると、やはり腹圧が上がって逆流の原因になります。
激しい運動は控える
健康な人がランニングやウエイトトーニングを行ったところ、胸焼けが誘発され、食道内のpHモニタリングでも食道内への酸暴露時間が延長したという研究報告があります。
ただし、だからといって全く運動しないのも健康によくないので、ウォーキングなどほどほどの運動にとどめておくのがよいでしょう。
内臓脂肪型肥満を解消する
脂肪には皮下脂肪と内臓脂肪がありますが、特に内臓脂肪型の肥満になると、胃が圧迫されて胃酸の逆流が起きやすくなります。
内臓脂肪型の肥満はおなかの内臓まわりに脂肪がたまるので、リンゴ型肥満ともいわれています。中年以降の男性に多くみられますが、若い人や閉経後の女性でもなるので注意が必要です。
市販の胃薬を利用する
胃薬と一言にいっても、実はいくつか種類があります。薬剤師の三上 彰貴子さんは薬局で買える胃薬の選び方の中でこのように説明しています。
・H2ブロッカー(胃酸の分泌を止める作用の成分)
成分名 | 商品名 |
ファモチジン | ガスター10(第一三共) |
ニザチジン | アシノンZ(ゼリア) |
ラニチジン塩酸塩 | アバロンZ(大正) |
ロキサチジン酢酸エステル塩酸塩 | アルタットA(興和)、イノセアワンブロック(佐藤) |
シメチジン | アルサメック錠(佐藤)、パンシロンH2ベスト(ロート) |
第1類医薬品なので薬剤師からの説明が必要。一部の薬と相互作用を及ぼすことがあるため、すでに何か薬を飲んでいる場合は薬剤師に相談のこと。
・ 制酸剤(胃酸と中和させる成分が入っている薬)
サクロンS(エーザイ)、パンシロンAZ(ロート製薬)、イノセアバランス(佐藤製薬)
ナトリウムやマグネシウム、アルミニウムなどを使っているものが多いため、高血圧や透析をしている人は使用を避けること。
・複合胃腸薬
新キャベジンコーワS(興和)
消化酵素や胃粘膜保護成分、胃の働きを促す健胃成分が含まれているため、胃酸過多だけでなく、慢性的に胃が弱っているときにもよい。
第一三共胃腸薬プラス(第一三共HC)
消化酵素、制酸剤、健胃成分などと一緒に乳酸菌も含まれるため、腸の調子も気になる場合によい。
・胃の動きを抑える薬
ブスコパンA(エスエス製薬)
胃がキューッと痛くなるときに。
・口臭も同時に抑える薬
サクロフィール錠(エーザイ)
銅クロロフィンナトリウムが主成分で、におい物質に直接働く脱臭作用と、胃酸を抑えたり、胃粘膜を修復する成分も配合。
・お腹が張っている症状を抑える薬
ガスピタン(小林製薬)
食物繊維を分解してガスの発生を抑える成分(セルラーゼAP3)や、ガスを小さくして除去する成分(ジメチルポリシロキサン)を配合。
生活習慣の改善だけでは治らない場合は病院へ
軽い胸焼けや一時的な胸焼けならともかく、程度がひどかったり慢性的なものだったりすると、生活習慣の改善だけでは治りません。日本消化器病学会が作成した胃食道逆流症(GERD)ガイドラインによると、「生活習慣の改善が逆流性食道炎の改善につながるというエビデンスは少ない」としており、推奨グレード(A:行うよう強く勧められる~D:行わないよう勧められる)はC1(行うほうがよい)にとどまっています。
ですから、胸焼けが慢性的に続き、ある程度生活習慣の改善をしても解消しない場合は、消化器科、胃腸科、内科などを受診し、より悪化してしまう前に治療を始めましょう。病院では市販にはない薬がもらえますし、外科手術という選択肢もあります。
食道ガンのリスクも
ただの胸焼けだと思っていたら食道ガンだった、ということもあります。逆流性食道炎を放置しておくことで症状が進行し、食道ガンになることもあります。このことからも、慢性的な胸焼けの症状を放置しておくのは危険です。
逆流性食道炎の治療法
病院に行く際には、現在の治療法についてある程度ご自分で知っておくことをお勧めします。患者側がある程度理解していると、医師とのコミュニケーションがスムーズになり、より質の高い治療を受けられる可能性が高まるからです。
日本消化器病学会は「胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン」(2009年11月刊行)の中で、治療手段の推奨グレードをそれぞれ定めています。あくまでこれはガイドラインであり、担当医師がこれをそのまま治療に適用するわけではありませんが、参考にはなると思うので、これをできるだけそのまま引用します。それぞれに関する詳しい解説は本書に書かれているのでそちらをご覧ください。
(グレードとエビデンスレベルの意味)
推奨グレード | |
グレード | 内容 |
A | 行うよう強く勧められる |
B | 行うよう勧められる |
C1 | 行うほうがよい |
C2 | 行わないほうがよい |
D | 行わないよう勧められる |
文献のエビデンスレベル | |
Ⅰ | システマティックレビュー/RCTのメタアナリシス |
Ⅱ | 1つ以上のランダム化比較試験による |
Ⅲ | 非ランダム化比較試験による |
Ⅳa | 分析疫学的研究(コホート研究) |
Ⅳb | 分析疫学的研究(症例対照研究、横断研究) |
Ⅴ | 記述研究(症例報告やケース・シリーズ) |
Ⅵ | 患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見 |
▼治療法の評価
生活指導 | ||||
ステートメント | グレード | エビデンスレベル | 保険適応 | |
海外 | 日本 | |||
生活習慣の中には食道内酸逆流を引き起こすものがあるがその変更や中止が症状改善につながるというエビデンスは少ない. | C1 | Ⅰ | なし | - |
薬物療法 | ||||
ステートメント | グレード | エビデンスレベル | 保険適応 | |
海外 | 日本 | |||
制酸薬、アルギン酸塩は、GERDの一時的症状改善に効果がある. | B | Ⅰ | なし | 可 |
逆流性食道炎(びらん性GERD)の治癒速度および症状消失の速さは、薬剤の酸分泌抑制力に依存する. | - | Ⅰ | Ⅲ | - |
NERD(非びらん性GERD)の治療に酸分泌抑制が有効である. | A | Ⅰ | なし | 可 |
PPIはGERDの第一選択薬である. | A | Ⅰ | Ⅰ | 可 |
常用量のPPIの1日1回投与にもかかわらず食道炎が治癒しない、もしくは強い症状を訴える場合には投与量、投与方法の変更が行われることがある. | B | Ⅳa | なし | 一部可 |
就寝前のH2RA追加投与は、PPIで効果不十分な患者の治療として行われることがある. | C1 | なし | Ⅳa | 一部可 |
薬物による長期管理には維持療法とオンデマンド療法がある. GERDの維持療法にはPPIを用いるのが最も効果が高く、同時に費用対効果にも優れている. | A | Ⅰ | Ⅰ | 可 |
GERDの長期管理について、患者の視点からは、効果(症状の寛解)、安全性、費用、剤形(服用しやすさ)、服用回数なども考慮すべきである. | B | Ⅱ | Ⅳa | 可 |
PPIによる維持療法の安全性は高い. | B | Ⅳa | Ⅳa | 可 |
外科的治療 | ||||
ステートメント | グレード | エビデンスレベル | 保険適応 | |
海外 | 日本 | |||
難治性GERDは外科的治療の適応としてもよい. | C1 | 不明 | なし | 可 |
長期的なPPIの継続投与を要するびらん性GERD患者は、外科的治療の適応としてもよい. | C1 | Ⅱ | なし | 可 |
びらん性GERDに対する逆流防止手術の長期成績はPPI治療と同等あるいは優れていると報告されているが、日本での比較検討が十分ではない. | - | Ⅱ | なし | - |
外科的治療とPPI治療の費用効果の比較は、日本では検討が十分ではない. | - | Ⅲ | なし | - |
逆流防止手術の成績は外科医の経験と技能に左右されることがある. | - | Ⅳb | なし | - |
開腹手術に比べ腹腔鏡手術は利点が多い. | B | Ⅱ | なし | 可 |
逆流防止手術におけるNissen法とToupet法で長期成績には明らかな差がない. | - | Ⅱ | なし | - |
GERDに対する内視鏡的治療が始まっているが、日本では検討が十分でない. | - | Ⅱ | なし | 一部可 |
PPIによる維持療法の安全性は高い. | B | Ⅳa | Ⅳa | 可 |