滑舌が悪い原因と改善する方法 治療法・トレーニング法・練習文など

滑舌の悪さを改善する方法は、その原因によって様々です。例えば吃音が原因なら吃音専門の治療院や言語聴覚士のいる耳鼻咽喉科などを受診するべきだし、脳や精神の問題が原因なら脳外科や精神科の受診が必要です。

今回はそういった深刻な原因による滑舌の改善ではなく、自分で割と手軽に行える範囲での改善方法について、まとめてみたいと思います。 

 

低位舌を治療する

舌にも正しい位置というものがあります。普段口を閉じているとき、舌の先端が上の歯の根元らへんについていて、かつ舌全体が上顎についていれば正常です。

しかし、何らかの理由で舌の筋肉が弱ってしまっている人は、舌が上顎につかず、べたーっと下に落ちてしまいます。この状態を「低位舌」というのですが、低位舌だと舌が動きづらくなり、滑舌が悪くなる原因になってしまうのです。

他にも、二重顎になったり、下顎が出てしまったり(しゃくれ)、睡眠時無呼吸症候群になったりと、とにかく良いことがありません。


▲「正常な舌の位置」と「低位舌の位置」の分かりやすい解説 

低位舌を治すトレーニング法としては、以下のリンク先が参考になると思います。

ベ・ロ・ハ・タ・カ・ラ
ガムトレーニング

また歯科医院によっては、ムーシールドというマウスピースを装着して治療する方法を実施しているところもあります。

口呼吸をやめる

口呼吸をしていると滑舌が悪くなります。口呼吸が習慣になっている方は口を閉じる力が弱っており、それが原因で構音障害(発音が正しくできない)を引き起こすことがあるのです。

他にも口内が乾燥して口臭の原因になったり、雑菌が喉について病気にかかりやすくなったりと、口呼吸は百害あって一利なしです。

しかし、口呼吸は意外と多くの人がしているものです。自分ではしていないと思っていたのに、実は鼻呼吸と口呼吸の両方を行っていた、という方もいます。そういった方も含め、確実に鼻呼吸を習慣化しておくことが重要です。

みらいクリニックの今井一彰院長は、著書「正しく「鼻呼吸」すれば病気にならない」の中で、鼻呼吸を習慣にするための方法として以下のことを薦めています。

・夜寝るとき、サージカルテープを口に貼る。
・食事のとき、片方だけで噛むのをやめ、左右のあごを均等に使って食べる。
・ガムやグミを定期的に噛んで、咀嚼筋を鍛える。

また、口をしっかり閉じておくには、口周りの口輪筋、咀嚼筋、舌筋などを鍛えることが効果的なのですが、今井院長はその方法として「あいうべ体操」をすることを推奨しています。

(1) 「あー」といって、口を大きく縦に開く
(2) 「いー」といって、口を大きく横に開く
(3) 「うー」といって、口を強く前に突き出す
(4) 「べー」と舌を出して、精いっぱい下に伸ばす

この(1)~(4)までの動き(5秒ほど)を1セットとして、1日に30~60セットを目安に毎日行うと効果があがるとのこと。1セット5秒ということは、30セットだと2~3分ですね。

注意点としては、あご関節症やあごを開けると痛む人の場合は、関節がスムーズに動くようになるまで回数を減らすこと、あるいは「いー」「うー」のみを繰り返すこと(関節に負担がかからないため)です。

また、口呼吸のためには先ほどもお話した舌の位置も重要です。舌が上顎についていると鼻呼吸がしやすくなります。 

  

口を開きすぎない・唇に力を入れすぎない

口を開きすぎると滑舌が悪くなることがあります。なぜなら、言葉には口を閉じなければ発音できない音(「ま行」など)があるからです。しゃべるときに口を大きく開きすぎると閉じるのが間に合わなくなり、中途半端な発音になってしまいます。

腹話術師は、口を開かなくてもかなり明瞭な発音をすることができます。このことからも、滑舌にとって口を大きく開くことはあまり重要でないことが分かります。

また、口を大きく開くことを意識しすぎると、唇に力が入りやすくなるのも問題です。 唇に余計な力が入ると、やはり滑舌に悪影響を及ぼす場合があります。口は必要以上に大きく開かず、唇に余計な力を入れないようにします。

腹式呼吸を身につける

腹式呼吸で声量を一定に保つようにすると、滑舌が改善することがあります。逆に胸式呼吸だと声が小さく弱々しくなり、発音がハッキリしなくなることがあります。

腹式呼吸とは、簡単にいえばお腹を膨らませながら息を吸い、お腹をへこませながら息を吐くことですが、正しいイメージを持つとより深い呼吸ができるようになります。

そのために、まず以下の動画をご覧ください。

 

これが肺です。肋骨周りから背骨まで、大きく広がっています。「この大きな肺一杯に酸素を送り込むぞ」というイメージで呼吸すると、より深い呼吸がしやすくなると思います。

次に横隔膜の動きを見てみましょう。以下の動画をご覧ください。

 

これが横隔膜の動きです。息を吸い込むときに横隔膜が下に動き、内臓を押し下げています。それによって、お腹が膨らみます。決してお腹に空気が入るからお腹が膨らむのではありません(空気が入るのは肺です)。

というわけで、息を吸うときに横隔膜を下にグーッと大きく押し下げるイメージで呼吸をします。先ほどの大きな肺一杯に酸素を送り込むイメージと同時に行えば、さらに呼吸が深くなると思います。

このように、具体的なイメージを持って腹式呼吸を行うようにすると、やがてより深い呼吸をする習慣が身につきます。

歯並びを治す

特に上の前歯がでこぼこで空気が漏れやすかったり、出っ歯のために唇がめくれ上がってしまっている場合に滑舌が悪くなりやすいようです。また、噛み合わせが悪いことで舌の動きが悪くなることがあります。こういう原因で滑舌が悪くなっている場合は、歯を矯正したほうがいいでしょう。 

肺活量を鍛える

肺活量が少ないと、呼気が弱くなり、口や舌にパワーが伝わらず、特に少し大きな声を出そうとしたときに喉を絞った声になったり、滑舌が悪くなることもあるといわれています。

肺活量を鍛える方法としては、例えば風船を膨らませるというのがあります。風船は100均とかに売ってるもので十分です。腹式呼吸で一息で風船を膨らませます。その風船の大きさが、現在の自分の肺活量の目安です。何日も繰り返し膨らませているうちに、肺活量が増え、だんだんと風船を大きく膨らませられるようになってきます。

 

朗読トレーニングで滑舌を鍛える

アナウンサーや声優、俳優などがよく滑舌のトレーニングに使う練習文をいくつかご紹介します。注意点としては、ちゃんと文の意味を理解し、イメージしながら話すことです。ただ単に字を追うだけだと、しっかり発音することは難しいです。実際に人と会話するときでも、意味を理解したうえで話します。それと同じように行うことが重要です。

ちなみに以下で紹介する練習文は、全て「10000人の声と人生を変えた 1分間<笑顔>発声法」付属のDVDに朗読の音声が収録されています。倉島麻帆さんというプロ(アナウンサー)の方による朗読なので、正しい発音を聞きながら練習したい方にお勧めです。

早口言葉

早口言葉というと早口でしゃべることを連想しがちですが、最初はゆっくり、はっきりと発音するようにします。以下、よくトレーニングに使われる早口言葉をア行~ワ行まで順番に並べました。

【早口言葉(ア行~ワ行)】

(あや)や親におあやまり お綾や八百屋におあやまりとおいい

くりくり坊主が 栗くって くりくり舞を繰り返し くるりと 庫裏(くり)へくり込んだ

坂元町の山王(さんのう)さんの桜の木に 猿が三匹下がった

田どじょう (あぜ)どじょう 畦どじょう 田どじょう

生麦 生米 生卵

古栗の木の古切り口

赤巻紙 青巻紙 黄巻紙

ゆめゆめ夢にも 酔いつぶれるな

(うり)売りが瓜売りに来て 瓜売り残し 売り売り帰る 瓜売りの声

笑わば笑え わらわは笑われる()われはないわい

五十音

北原白秋(きたはらはくしゅう)の「五十音」です。韻を踏んだ語呂の良さが特徴です。

【五十音全文】

水馬(あめんぼ) 赤いな アイウエオ
浮藻(うきも)に 小蝦(こえび)も 泳いでる

柿の木 栗の木 カキクケコ
啄木鳥(きつつき) こつこつ 枯れ(けやき)

大角豆(ささげ)に 酢をかけ サシスセソ
その(うお) 浅瀬(あさせ)で 刺しました

立ちましょ 喇叭(らっぱ)で タチツテト
トテトテ タッタと 飛び立った

蛞蝓(なめくじ) のろのろ ナニヌネノ
納戸(なんど)に ぬめって なに粘る

鳩ポッポ ほろほろ ハヒフヘホ
日向(ひなた)の お部屋にゃ 笛を吹く

蝸牛(まいまい) ネジ(まき) マミムメモ
梅の実 落ちても 見もしまい

焼栗(やきぐり) ゆで栗 ヤイユエヨ
山田に ()のつく (よい)の家

雷鳥(らいちょう)は 寒かろ ラリルレロ
蓮花(れんげ)が 咲いたら 瑠璃(るり)の鳥

わいわい わっしょい ワイウエヲ
植木屋 井戸()え お祭りだ

外郎売(ういろううり)

これもアナウンサーや俳優のトレーニングとして非常に有名です。自分が外郎売になって大衆に対して宣伝するつもりで、ゆっくりと、滑舌良く読んでいきます。速く読むことより、まずは変な発音の癖をつけないようにすることが重要です。 

 

【外郎売全文】

拙者(せっしゃ)親方(おやかた)と申すは、お立合(たちあい)(うち)御存知(ごぞんじ)のお方もござりませう(しょう)が、お江戸を()って二十里上方(かみがた)相州小田原一色町(そうしゅうおだわらいっしきまち)をお過ぎなされて、青物町(あおものちょう)を登りへおいでなさるれば、欄干橋虎屋藤衛門(らんかんばしとらやとうえもん)只今(ただいま)剃髪(ていはつ)(いた)して、円斎(えんさい)と名乗りまする。

元朝(がんちょう)より大晦日(おおつごもり)までお手に入れまするこの薬は、昔ちんの国の唐人外郎(とうじんういろう)とい()人、わが(ちょう)(きた)り、(みかど)参内(さんだい)(おり)から、この薬を深く()めおき、用ゆる時は一粒(いちりゅう)づつ、(かんむり)隙間(すきま)より取り(いだ)す。()ってその名を帝より、とうちん()うと(たま)()る。(すなわ)文字(もんじ)には、「(いただ)き、()く、(にお)()」と書いて、「とうちん()う」と申す。只今はこの薬、(こと)(ほか)世上(せじょう)(ひろ)まり、方々(ほうぼう)似看板(にせかんばん)(いだ)し、イヤ、小田原(おだわら)の、灰俵(はいだわら)の、さん(だわら)の、炭俵(すみだわら)のと、色々に申せども、ひらがなをもって「う()ろう」と(しる)せしは親方円斎ばかり。もしやお立合の(うち)に、熱海(あたみ)塔ノ沢(とうのさわ)湯治(とうじ)にお()でなさるるか、(また)伊勢(いせ)参宮(さんぐう)の折からは、必ず門違(かどちが)()なされまするな。お登りならば右の(かた)、お(くだ)りなれば左側、八方(はっぽう)が八つ(むね)(おもて)三棟(みつむね)玉堂(ぎょくどう)(づく)り、破風(はふ)には(きく)(きり)()うの御紋(ごもん)御赦免(ごしゃめん)あって、系図(けいず)正しき(くすり)でござる。

イヤ、最前(さいぜん)より家名(かめい)自慢(じまん)ばかり申しても、御存知ない(かた)には、正身(しょうしん)胡椒(こしょう)丸呑(まるのみ)白河夜船(しらかわよふね)、さらば一粒(いちりゅう)食べかけて、その気味合(きみあい)をお目にかけませう(しょう)()ずこの薬をか()うに一粒(いちりゅう)(した)の上にのせまして、腹内(ふくない)(おさ)めますると、イヤどうも()()ぬは、()(しん)(はい)(かん)がすこやかになりて、薫風(くんぷう)(のんど)より(きた)り、口中(こうちゅう)微涼(びりょう)(しょう)ずるがごとし。魚鳥(ぎょちょう)(きのこ)麺類(めんるい)喰合(くいあわ)せ、その(ほか)万病(まんびょう)速効(そっこう)ある事神の(ごと)し、さて、この薬、第一の奇妙(きみょう)には、舌のま()ることが、(ぜに)独楽(ごま)がはだしで()げる。ひょっと舌がまはり()すと、()(たて)もたまらぬぢゃ(じゃ)。そりゃそりゃ、そらそりゃ、まわってきたわ、まわってくるわ。アワヤ(のんど)、サタラナ舌に、カ()歯音(しおん)、ハマの二つは(くちびる)軽重(けいちょう)開合(かいごう)さわやかに、アカサタナハマヤラワ、オコソトノホモヨロヲ、一つへぎへぎに、へぎほしはじかみ、(ぼん)まめ・盆(ごめ)・盆ごぼう・摘蓼(つみたで)・つみ(まめ)、つみ山椒(ざんしょう)書写山(しょしゃざん)社僧正(しゃそうじょう)粉米(こごめ)のなまがみ、粉米のなまがみ、こん粉米の小生(こなま)がみ、繻子(しゅす)・ひじゅす・繻子(しゅす)繻珍(しゅちん)(おや)嘉兵衛(かへい)()も嘉兵衛、親かへい子かへい、子かへい親かへい、ふる(くり)の木の古切口(ふるきりくち)雨合羽(あまがっぱ)か、(ばん)がっぱか、貴様(きさま)のきゃはんも皮脚絆(かわぎゃはん)我等(われら)がきゃはんも皮脚絆、しつかは(しっかわ)(ばかま)のしっぽころびを、三針(みはり)はりながにちょと()うて、ぬうてちょとぶんだせ、か()撫子(なでしこ)野石竹(のぜきちく)。のら如来(にょらい)、のら如来、()のら如来に()のら如来。一寸先(ちょっとさき)のお小仏(こぼとけ)におけつまづきゃるな、細溝(ほそどぶ)にどぢょ(じょ)にょろり。(きょう)生鱈(なまだら)奈良(なら)なま学鰹(まながつお)、ちょと四五貫目(しごかんめ)、お茶立(ちゃた)ちよ、茶立ちよ、ちゃっと立ちよ茶立ちよ、青竹茶筅(あおたけちゃせん)でお茶ちゃと立ちや。

()るわ来るわ何が来る、高野(こうや)(やま)のおこけら小僧(こぞう)(たぬき)百匹、(はし)(ぜん)天目(てんもく)百杯、(ぼう)八百本。武具(ぶぐ)馬具(ばぐ)・ぶぐ・ばぐ・()ぶぐばぐ・(あわ)せて武具・馬具・()ぶぐばぐ、(きく)(くり)・きく・くり・()菊栗、合せて菊・栗・()菊・栗、(むぎ)・ごみ・むぎ・ごみ・()むぎごみ・合せてむぎ・ごみ・()むぎごみ。あの長押(なげし)長薙刀(ながなぎなた)は、()が長薙刀ぞ。向かふ(むこう)胡麻(ごま)がらは、()のごまがらか、()ごまがらか、あれこそほんの真胡麻殻(まごまがら)がらぴいがらぴい風車(かざぐるま)、おきやがれこぼし、おきやがれ小法師(こぼうし)、ゆんべもこぼして又こぼした。たあぷぽぽ、たあぷぽぽ、ちりから、ちりから、つつたつぽ、たつぽたつぽ一丁(いっちょう)だこ、()ちたら()喰を(くお)、煮ても焼いても喰は(くわ)れぬ物は、五徳(ごとく)鉄きう(てっきゅう)・かな熊童子(ぐまどうじ)に、石熊(いしくま)石持(いしもち)虎熊(とらくま)・虎きす・(なか)にも、東寺(とうじ)羅生門(らしょうもん)には、茨木童子(いばらきどうじ)がうで栗五合(ぐりごんごう)つかんでおむしゃる、かの頼光(らいこう)のひざ(もと)去らず。

(ふな)・きんかん・椎茸(しいたけ)(さだ)めて後段(ごだん)な、そば()り、そうめん、うどんか、愚鈍(ぐどん)小新発知(こしんぼち)小棚(こだな)の、小下(こした)の、小桶(こおけ)に、こ味噌(みそ)が、こあるぞ、小杓子(こしゃくし)、こもって、こすくって、こよこせ、おっと、合点(がってん)だ、(こころ)()たんぼの川崎(かわさき)神奈川(かながわ)程ヶ谷(ほどがや)戸塚(とつか)は、走って行けば、やいとを()りむく、三里(さんり)ばかりか、藤沢(ふじさわ)平塚(ひらつか)大磯(おおいそ)がしや、小磯(こいそ)宿(しゅく)を七つ起きして、早天早々(そうてんそうそう)、相州小田原とうちん(こう)(かく)れござらぬ貴賤群衆(きせんぐんじゅ)の、花のお江戸の花う()ろう、あれあの花を見てお心を、おやゎらぎゃという。産子(うぶこ)這ふ子(はうこ)(いた)るまで、()の外郎の御評判(ごひょうばん)、御存じないとは申されまいまいつぶり。角出(つのだ)せ、棒出せ、ぼうぼうまゆに、(うす)(きね)・すりばち、ばちばちぐわら(がら)ぐわら(がら)ぐわら(がら)と、羽目(はめ)(はず)して今日(こんにち)()での何茂様(いずれもさま)に、上げねばならぬ、売らねばならぬと、(いき)せい(ひっ)ぱり、東方(とうほう)世界の薬の元締(もとじ)め、薬師如来(やくしにょらい)照覧(しょうらん)あれと、ホホ(うやま)って、う()ろうは、いらっしゃりませぬか。