わきが・わき多汗症の原因と対策 対症療法と完全に治療する方法

わきがやわきの多汗症はとても深刻な悩みです。欧米ではわきがの人が多いのでそこまで問題にならないのですが、日本人のわきがの人は少ないため、どうしても目立ってしまい、その分悩みが深いのです。多汗症に関しても、知識の無い人からは「たかが汗」と軽く見られてしまう傾向があり、それが余計に多汗症の方を悩ませています。

しかし、わきがやわきの多汗症はちゃんと治療することができるので、決してあきらめる必要はありません。症状の程度によって適切な治療法が変わってきますので、まずは原因と対策法を整理し、そのうえでどの治療法でいくのかを決めましょう。

 

わきが・わき多汗症の仕組み

脇下の皮膚の構造

上の図は、わきの下の皮膚構造です。私たちの皮膚は、普段目にしている「表皮」、その下の「真皮」、さらに「脂肪層」の3層から成っています。そこにはわき毛の他に、「アポクリン腺」「エクリン腺」という2種類の汗腺があります。このうち、わきがの原因になるのがアポクリン腺、わきの多汗症の原因になるのがエクリン腺です。

わきがの原因

アポクリン腺が分泌する汗には脂肪やたんぱく質が多く含まれているため、皮膚表面に付着している細菌がその脂肪やたんぱく質をどんどん分解し、わきがの臭いを生み出します。

アポクリン腺は脇だけでなく、乳首、へそ周辺、外陰部、肛門にも存在します。またワキガ体質の方は、耳の中にもアポクリン腺があります。わきがの方の耳アカが湿っているのは、耳の中のアポクリン腺が常に汗を出しているからです。

また、エクリン腺が分泌する汗は水と塩でできていてほとんど無臭ですが、エクリン腺の汗で脇の下が湿った状態になると、湿気が大好きな細菌の繁殖を助けることになってしまい、結果アポクリン腺によるわきが臭を増長させてしまいます。(アポクリン腺が無い方はワキガ臭はしません)

わきの多汗症の原因

私たちが普段流す汗はエクリン腺が分泌する汗です。このエクリン腺が発達しすぎたり、あるいは精神的な緊張が引き金になってエクリン腺が暴走すると、汗が止まらなくなる、すなわちわきの多汗症を引き起こします。

つまりわきの多汗症には、体質による持続的な多汗症と、緊張による一時的な多汗症の2種類があるということです。生活環境がガラリと変わった時などは一時的な多汗症を引き起こしやすいので、そういうときはあわてて手術を受けるのではなく、少し様子を見ることも必要です。生活環境に慣れることで改善することもあります。

わきがの自己チェック

自分がわきがであるかを正確に確認するのは、意外と難しいです。なぜなら、自分の臭いに慣れすぎて分からなくなってしまう場合や、逆に気にしすぎてわきがじゃないのにわきがだと思い込む「自臭症」という精神疾患になってしまう場合があるからです。わきは元々湿気がこもりやすく、細菌が繁殖しやすい場所なので、汗クサイ臭いも出やすいのですが、それをわきがと勘違いしてしまう場合もあります。

ここでは一応、わきがを自己チェックする方法を書きますが、確実に確かめたい場合は一度病院にいって医師に確認してもらいましょう。

親族にわきがの人がいる

わきがになりやすい体質というのは、親から遺伝することがあります。両親共にわきがの場合は片親がわきがの場合よりも高い確率で遺伝します。

耳アカが湿っている

わきが体質の方は耳の中にもアポクリン腺があるため、そこから分泌される汗によって耳アカが湿っています。逆にカサカサに渇いた耳アカの方でわきがの人はほとんどいません。

ただし、耳アカが湿っているからといって、絶対にわきが臭がするとも限りません。 

服に黄ばみが見られる

わきがの場合、アポクリン腺の分泌物で服が変色することがあります。

ただし、制汗剤を日常的に使っている方はそれによる変色かもしれませんし、まれにエクリン腺から出る汗に色がついている場合(色汗症)も服が変色することがあります。

親族からわきが臭を指摘されたことがある

わきがの人は自分のわきが臭を知っていることが多いため、もし親や親戚からわきが臭を指摘された場合は、その人自体がわきがである可能性があり、わきがが遺伝した可能性があるということになります。

思春期頃からわきの下の臭いが気になっていた

わきが臭がする方の場合、思春期頃からわきの下の臭いが気になりだす方が多いです。大人になってから突然わきがになることはないので、もし大人になってからわきの下の臭いが気になりだしたのなら、それは汗クサイ臭いや加齢臭など、他の臭いである可能性が高いです。

わき多汗症の自己チェック

わきの汗がずっと止まらない

1日中ずっとだらだらとわきの汗が止まらないなら、わきの多汗症である可能性が高いです。逆に、暑い日だけとか、運動をしたあとだけ汗が出るというのは、多汗症でなくても起こり得ることです。

緊張すると大量に汗が出る

普段はあまり出ないのに、いざ緊張したときだけ大量に汗が出るのなら、それは一時的な精神性のわきの多汗症かもしれません。

手術は最終手段

まず、わきがもわきの多汗症も、完治させるためには手術が必要です。アポクリン腺とエクリン腺を物理的に取り除かない限り、根本的な解決には至らないからです。

しかし、手術には様々なリスクが伴います。手術後しばらく腕を動かせないために生活に支障が出たり、切開した傷跡が残ってしまったり、色素沈着やしわができたり。医師が汗腺を取り残してしまい、わきが・わきの多汗症が再発する可能性もあります。数十万円という高額な費用もデメリットの一つです。

なので、手術はあくまで最後の手段として、まずは手術以外の方法で解決できないか試してみることが先決です。

わきがの対策

制汗剤を使う

最近の市販の制汗剤はかなり優秀で、程度の軽いわきが臭であればほぼ消すことができます。スティックやスプレー、クリームなど、いろんなタイプがありますので自分の好みで選びましょう。

常に清潔にする

わきがはアポクリン腺からの汗が皮膚表面の細菌によって分解されることで発生します。なので、清潔にして細菌の繁殖を抑えるようにすれば、わきがをある程度抑制できます。わきが・体臭用の石鹸を使うのも手ですが、殺菌作用のある石鹸なら基本的に何でも大丈夫かと思います。

わき毛の処理をする

わき毛があると細菌が繁殖しやすくなるので、可能であればこまめにわき毛を処理しておくと良いです。

アポクリン腺を刺激する食事をやめる

欧米人の体臭が強い原因の一つは、肉中心の食生活です。動物性たんぱく質や脂質が中心の食事を続けていると、アポクリン腺の分泌が刺激され、より強いわきが臭が起こるようになります。肉などに偏ることなく、バランスのよい食事を習慣にすることは、わきが臭を抑えるのに効果的です。

酒・たばこを控える

アルコールには汗腺の活動を促し、汗の量を増やす働きがあります。さらにアルコールの代謝物質であるアセトアルデヒドや酢酸は臭いの強い物質で、これらの一部は汗や呼気となって体外に排出されます。

また、たばこに含まれるニコチンは、視床下部や交感神経を刺激し、汗腺からの汗の分泌を促進します。

わきが臭を悪化させないためには、酒とたばこはできるだけ控えるべきです。 

 

わきの多汗症の対策

精神安定剤

精神的緊張による一時的なわきの多汗症の場合、あらかじめ緊張するタイミングが分かっているなら精神安定剤を使うのも一つの手です。例えば大事な試験の日とか、人前でスピーチをするときなど、そういう時に精神安定剤を使えば、緊張が和らぎ、わきの下の汗が抑えられます。

精神安定剤は服用を誤ると依存症になったりする危険もあるので、自分で適当に市販の薬に手を出したりせず、心療内科、神経科、精神科などを受診し、専門医に自分に合った薬を処方してもらいましょう。

ボトックス注射

汗腺は、アセチルコリンという神経伝達物質によって信号が伝えられ、汗を出すようになります。ボトックスはこのアセチルコリンを阻害し、信号を遮断することで汗を抑制するものです。

切開をしないので傷跡が残らず、割と短時間で終わります。効果の持続期間には個人差がありますが、4~9か月ほどです。一時的なわきの多汗症の方は、とりあえずボトックス注射で様子を見るという手もあります。

2012年11月から保険適応可となっており、病院によっては保険適応で打ってもらえます。料金は病院にもよりますが、保険適応で3万円前後のようです。

なお、以下2つの方法はわきの多汗症に関してはあまりオススメできません

塩化アルミニウムを塗る

塩化アルミニウムには物理的に汗を止める働きがあります。しかし皮膚が弱い箇所に塗ると、かぶれや炎症を起こすことがあります。手のひらは皮膚が分厚いので手汗には有効ですが、わきの下は皮膚が敏感で弱いため、使わない方が無難です。

イオントフォレーシス治療

弱い電流を流して汗腺からの汗を抑制する方法ですが、毎日継続的に行わなければ効果が出ないこと、長期間継続していると逆に効果がなくなってくること、皮膚の弱いわきの下ではかぶれや湿疹などのトラブルが起きやすいことなどの理由から、少なくともわきの多汗症にはイマイチです。

わきが&わき多汗症共通の対策

ミラドライ

ミラドライは2006年に米Miramar Labsが開発した、わきの多汗症を治療する新しい技術です。日本でミラドライを導入している病院では「わきがにも効果がある」とされているようです。マイクロ波エネルギーでエクリン腺・アポクリン腺を破壊します。

ミラドライわきが多汗症の医師団によると、ミラドライの魅力は

・手術のように切開する必要がないので、傷跡が残らない
・手術と同等の半永久的な効果が得られる
・ダウンタイムが短く、当日から日常生活が送れる

とのこと。

しかし口コミ広場のミラドライ体験報告などを見てみると、わきが・わきの多汗症が改善したという声がある一方、「効果がなかった」、「数か月で元に戻った」などの口コミが多数寄せられています。また、「腕が腫れて手を動かせなかった」「指の痺れが痛かった」など、ダウンタイムが決して短くなかったという声もあります。現在のところは、まだ切開手術ほどの治療効果は期待できないかもしれません。

あと、とても高額な施術料金もネックですね。(ミラドライの料金)

ももスキンケアクリニックの福田院長はミラドライに関しての中で「私はまだまだ様子見」としています。そういう専門医も結構いそうですね。

わきが・わきの多汗症の手術

わきがもわきの多汗症も、現在のところ、症状が重い場合や完治させたい場合は手術が必要です。ここでは特に世間で「治った」という声が多い手術法についてご紹介したいと思います。

剪除法(せんじょほう)

わきの下に2~3箇所切開を入れ、皮膚を指で裏返し、その裏側をハサミで少しずつ切り取っていく方法です。多くの形成外科、美容外科で行われているスタンダードなわきが・わき多汗症の手術法です。病院によっては保険が適用され、5万円前後と安い費用で受けることが可能です。

剪除法は、医師の腕が良ければアポクリン腺とエクリン腺を確実に取り除くことができます。しかしハサミで皮膚の裏側を均一に切り取っていくのは難しく、医師の技術力が足りないとアポクリン腺やエクリン腺を取り残してしまうことがあります。

また、皮膚を薄く削るので、術後に色素沈着が起きたりしわができたりすることがあります。薄く切り過ぎると皮膚に穴があいたり、皮膚が壊死(えし)することも。そういった問題が起こるのを恐れて、わざと皮膚を厚く残して手術を終えてしまう医師もいます。それだとアポクリン腺やエクリン腺をしっかり取り除くことができず、わきが・わきの多汗症を完治できません。

さらに、剪除法は両脇で60分~120分と、結構時間がかかります。手術の時間が長ければ長いほど、医師への負担が大きくなり、正確な手術が難しくなるため、医師には体力と集中力も必要です。

よって剪除法でわきが・わきの多汗症を完治させるためには、しっかりとした実績があり、患者の評判のいい医師を選ばなければなりません。

あとは切開口が3~4cmと他の手術法に比べて大きいこと、ダウンタイム(施術~体が回復するまでの期間)が1~2週間と長め、なども短所です。

実際の剪除法の様子は以下のリンク先の動画で見ることができます。皮膚裏や出血などがありますので、苦手な方や手術前に見たくないという方は見ないでください。

⇒ わきが(腋臭症)手術,剪除法、皮弁法のすべて(YouTube)

直視下剥離法

五味クリニックの五味常明院長が考案した手術法で、従来の剪除法とは違い、脂肪層とアポクリン腺、真皮層とアポクリン腺を剥離する方法です。五味院長は、これによって余計な皮膚や脂肪層を取ってしまうことなく、アポクリン腺の取り残しを防ぐことができる、と説明しています。切開口は1.5~2cmと、従来の剪除法に比べれば小さくて済みます。

ただ、手術時間は最低1時間と、やはりそれなりの時間がかかります。あとダウンタイムについて、五味クリニックのHPでは「当日から就労可能」と書いてありますが、実際はちょっと難しいです。口コミでは「PC作業なら4~5日後から可能だった」などの意見があります。少なくとも当日から仕事や作業がバリバリできるとは考えない方がいいでしょう。

また保険がきかないため、剪除法と比べてかなり費用がかかります。(費用表)

直視下剥離法の詳細は、五味クリニックのこちらのページにあります。

イナバ式皮下組織削除法

稲葉クリニック独自の手術法で、皮下組織削除器という、ハサミの先にローラーとカミソリ刃がついたものを使って皮膚の裏側を削り取る方法です。皮膚表面をローラーで押さえながらカミソリの刃で少しずつ削っていくため、皮膚裏をかなり薄く削ることができます。医師の腕が良ければ、アポクリン腺もエクリン腺も綺麗に取ることができます。また、イナバ式は両脇で30分~40分と、手術時間が若干短いこと、切開口が1cm程度と小さいこと、なども長所です。

しかしわきの手術は、皮膚を薄く削れば削るほど色素沈着やしわができやすくなりますし、傷跡が残る日数も伸び、安静にしていないと皮膚が壊死することもあります。この点は他の手術法と同じです。

ダウンタイムについては、1週間後からデスクワークなどの軽い仕事ができるようになるが、無理をすると皮膚が剥がれることがあるのでお勧めしない、としています。どの手術法でも、ダウンタイムは少し長めに見積もっておいたほうが無難ですね。

保険がきかないため費用は高いですが、わきの下の手術が初めての方はいくらか安くなります。(費用について)

ちなみに、稲葉クリニック以外の病院でもイナバ式皮下組織削除法を行っているところがありますが、稲葉院長は著書「ワキガ・多汗症を治す―専門医からのアドバイス」の中で、「イナバ式を正確に行うには、それ相応の技術が必要になる。したがって、私がイナバ式での確実な成果をお約束できるのは稲葉クリニックだけ」と述べています。イナバ式で確実にわきが・わきの多汗症を完治させたい場合は、稲葉クリニックまで足を運んだ方がよさそうです。 

イナバ式皮下組織削除法の詳細は、稲葉クリニックのこちらのページにあります。

  

手術を受けるなら必ず腕のいい医師を

以上のことからわかるように、わきが・わきの多汗症の手術が成功するか否かは医師の腕に大きく依存しています。完治させるためにも、できるだけ傷を残さないためにも、より腕のいい医師を慎重に選ばなければなりません。

腕のいい医師が分からないという方は、まずはわきが専門である五味クリニックの五味常明院長か、稲葉クリニックの稲葉義方院長を検討してみるといいかと思います。

お子さんが悩んでいないかご注意を

例えばわきがで悩んでいる人のネット上の書き込みを見ると、

「臭いから死ねと言われ、本当に死にたいと何度も思った」 
「人として生きる権利が認めてもらえない」
「子供に同じ地獄を味わわせたくないから子供は絶対産まない」

など、とてもショッキングな声がたくさん見られます。このように、わきがや多汗症は本当に深い悩みなのですが、それが子供となるとなおさらです。子供は経済力がなく、自分で情報を集めたり考えたりする力もまだ足りないため、親が助けてあげないとどんどん追いつめられていってしまうことがあります。お子さんをお持ちの方は、お子さんの様子にどうか気をつけてあげてください。