アレルギー性鼻炎(花粉症・通年性)の見落としがちな原因と治療法

日本人にとても多い「アレルギー性鼻炎」。馬場廣太郎氏らが発表した「鼻アレルギーの全国疫学調査2008(1998年との比較)」によると、アレルギー性鼻炎全体(花粉症+通年性アレルギー性鼻炎)の有病率は1998年では29.8%だったのに対し、2008年では39.4%にまで増加しています。

アレルギー性鼻炎には治療ガイドラインがあるのですが、今回お話するのはガイドラインに載っていない原因と治療法についてです。つまり、耳鼻咽喉科ではこれらはスルーされる可能性があります。特に耳鼻咽喉科の治療で思うように改善しない方は一度疑ってみることをお勧めします。

 

慢性上咽頭炎

「慢性上咽頭炎」とはあまり聞きなれない言葉ですが、実はこれがアレルギー性鼻炎の原因になりうるといわれています。

上咽頭の炎症が鼻の症状を引き起こす

慢性上咽頭炎とは字のごとく、上咽頭の炎症が慢性化する病気です。

上咽頭とは鼻の奥の方にある部位のことで、ここに病原微生物が集まることで炎症が起こり、鼻水・鼻づまり・頭痛などの症状を引き起こします。これが「急性上咽頭炎」であり、一般にいう「風邪」のことです。

通常、急性上咽頭炎は体が持つ免疫力(自己治癒力)によって時間とともに治っていきます。しかし、慢性的な寝不足や疲労、ストレスなどがあると免疫システムに異常が起き、うまく上咽頭の炎症を治せないままになってしまうことがあります。それが「慢性上咽頭炎」です。

実はこの慢性上咽頭炎は程度の差はあれ誰でも持っている炎症です。上咽頭はかなり広い空間であるうえ、空気の流れる方向が下向きに変化する場所なので、どうしても空気の速度が落ちて流れがとどこおりやすくなります。そのため空気中の細菌やウイルスが上咽頭の表面にくっつきやすく、絶えず炎症が起きてしまうのです。

この慢性上咽頭炎の治療の効果について、堀田修クリニックの堀田修(ほったおさむ)院長は著書「よくわかる最新療法 病気が治る鼻うがい健康法 体の不調は慢性上咽頭炎がつくる」の中でこう述べています。

「慢性上咽頭炎の数多くの臨床研究を行った堀口申作氏は、「花粉症、喘息、アトピー性皮膚炎に上咽頭炎の治療が有効であった」と報告しています。実際、私もIgA腎症の治療のために上咽頭炎の治療を行っている何人もの患者さんから、花粉症が軽くなった、という話を聞いています」

耳鼻咽喉科の教科書に載っていない

慢性上咽頭炎はあまり有名な病気ではありません。耳鼻咽喉科の教科書にも出てこないし、大学の授業にも出てこない。50年以上前の日本では盛んに行われていた慢性上咽頭炎の研究が、なぜ今は埋もれてしまっているのか、その理由は「よくわかる最新療法 病気が治る鼻うがい健康法 体の不調は慢性上咽頭炎がつくる」に詳しく書かれているので興味がある方は読んでみてください。

私たち患者が注意しなければならないことは、「耳鼻咽喉科で診察を受けても慢性上咽頭炎を見逃されてしまう可能性がある」という点です。上咽頭はのどの裏側にあり、口を肉眼でのぞいただけでは見ることができないため、ファイバースコープを使う必要があります。しかし堀田院長によると、ファイバースコープで見たとしてもせいぜい軽度の発赤(ほっせき:充血して赤くなること)がある程度で、慢性上咽頭炎を知らない医師が見てもそれを異常と認識しないのだそうです。

よって、慢性上咽頭炎の診察・治療を受けたいという方は、その病院が慢性上咽頭炎の治療を行っているかどうか確認してから行くようにしましょう。

慢性上咽頭炎の治療法

1. Bスポット治療

慢性上咽頭炎の最も有効な治療法は「塩化亜鉛の塗布」です。専用の細くて長い綿棒の先に塩化亜鉛を染み込ませ、鼻か口から入れて幹部にチョンチョンと当て、炎症をおさえます。堀口氏はこの治療を「Bスポット治療」と名付けました。

Bスポット治療はとても簡単で料金が安く、時間も1分前後(炎症の程度や医師による)で終わりますが、以下のような欠点もあります。

(1) 痛い

塩化亜鉛を当てたときに痛みがあります。この痛みは炎症の度合いがひどければひどいほど大きくなります。人によっては痛さのあまり「もう2度とこの治療をやらないでほしい」という人もいるそうです。

(2) 病院にしばらく通う必要がある 

塩化亜鉛は薬事法で劇物指定されているので、私たち一般人が手に入れて扱うことはできません。よって、Bスポット治療を行っている耳鼻咽喉科まで出向く必要があります。

また、慢性上咽頭炎は1度の治療で終わるものではありません。症状の重さや患者・医師によって変わりますが、例えば週に1回など定期的に通わなければなりません。

さらに先ほども述べたように、慢性上咽頭炎は程度の差はあれ誰でも持っている炎症なので、何かをきっかけにまた悪化するかもしれません。その場合は、また病院に行って治療を受けなくてはなりません。

このように欠点もあるBスポット治療ですが、慢性上咽頭炎を確実に治療するには現在のところこれが一番のようです。

2. ミサトールリノローションで鼻うがい

ミサトールリノローションとは、青梅のエキスで作られた鼻洗浄液で、堀田院長とアダバイオ株式会社が作りました。青梅には殺菌効果・抗炎症作用があり、人体に安全であることも知られています。堀田院長の患者さんからの評判はおおむね良好だそうです。

購入する場合は、アダバイオ株式会社のこちらのページから問い合わせたうえで購入することができます。

3. プレフィアで鼻うがい

もう一つ、プレフィアという微酸性電解水で鼻うがいをするという手があります。

これも堀田院長と有限会社グローバルアイが作ったもので、高い殺菌効果があります。ただし、ミサトールリノローションのような抗炎症効果まではありません。有限会社グローバルアイのこちらのページから購入できます。

プレフィアも、堀田院長の患者さんの評判はおおむね良好だそうです。 

4. 生理用食塩水で鼻うがい

食塩水なので、上記の洗浄液のような抗炎症効果や高い殺菌効果はありません。よって、風邪の予防には効果が期待できますが、すでに起きている炎症を抑えたり、問題のウイルスや細菌を完全に除去することは難しいようです。

堀田院長の勧める生理用食塩水での鼻うがいのやり方は以下の通りです。

(1) 0.9%濃度の生理用食塩水を作る
水500mℓなら4.5gの食塩、水100mℓなら0.9gの食塩を混ぜれば出来上がりです。普通の水で鼻うがいすると「ツーン」としますが、生理用食塩水は体液と同じ濃度なのでしみません。水道水は残留塩素を含むので使わず、蒸留水や精製水を使います。精製水はドラッグストアなどで売ってます。

(2) 鼻洗浄用器具で洗浄する
エネマシリンジ鼻洗浄器具を使って鼻を洗浄します。頭を後ろに60°ぐらい傾けて、鼻から入れて「エー」と声を出しながら口から出します。1回の洗浄に用いる生理用食塩水は100~200mℓが目安です。

(3) 鼻洗浄後はすぐに鼻をかまない 
終わった後、ティッシュを使う場合は鼻をそっと拭く程度にしてください。チーンと思い切りかむと、中耳炎の原因になることがあります。 

以上、慢性上咽頭炎の治療法でした。最も確実なのはBスポット治療ですが、近くにBスポット治療を行っている耳鼻咽喉科が無いなどの事情がある方は、鼻うがいを試してみると良いかと思います。また、普段から習慣的に鼻うがいをするようにしておくと、上咽頭炎を予防するのに役立ちます。 

 

ビタミンD欠乏症

今回、慢性上咽頭炎と同時にもう一つご紹介したいのが、この「ビタミンD欠乏症」です。

ビタミンDが欠乏すると免疫バランスが崩れる

花粉症は免疫制御がうまくいっていない状態といえますが、この免疫のバランスをとるためにビタミンDが有効であることが、最新の医学で分かってきています。

日本の機能性医学の第一人者といわれている斎藤糧三(りょうぞう)医師は著書「サーファーに花粉症はいない ~現代病の一因は「ビタミンD」欠乏だった!~ 」の中で、ビタミンDの花粉症に対する効果について、以下のように説明しています。(専門的な話なので、興味のない方はここは飛ばしていただいても構いません)

「近年の基礎医学に関する研究で、ビタミンDの免疫系細胞に対する影響は、驚くほど多岐にわたることがわかってきました。 

・制御性T細胞を誘導するケミカルメディエーターを抗原提示細胞に分泌させる
・制御性T細胞を誘導する抗原提示細胞(寛容型樹状細胞)を分化誘導する
・制御性T細胞から制御性ケミカルメディエーター分泌を促進して、Th1/Th2系を抑制する
・抗原提示細胞の成熟を妨げる(抗原提示細胞の抗原提示が弱くなる)
・抗体を産生するリンパ球への成熟分化を妨げる
・リンパ球の抗体産生を妨げる 

 以上はあくまで、効果の一部でしかありません。ビタミンDが適切な血中濃度の範囲に保たれていると、これらの効果が免疫をバランスさせる良い方向に働いて、花粉症の症状が改善されていると考えられます」

蔓延するビタミンD欠乏症

ビタミンDは日光を浴びれば自分の身体で合成することができます。よって、たとえ食事からのビタミンDが不足しても、しっかり日光を浴びる習慣があればビタミンD欠乏症にはほとんどなりません。

しかし近年、紫外線と皮膚がんの関連付けなどによって、私たちは紫外線を避けるようになりました。その結果、ビタミンDを合成する機会が減り、ビタミンD欠乏症がより深刻になってきているといわれています。

Neil C. Binkleyは2007年、ハワイ在住の人々のビタミンD事情について報告しています(Low vitamin D status despite abundant sun exposure)。平均して週に28時間以上は日を浴びているという93名の大人のビタミンD濃度を測定したところ、その半分以上もの人が欠乏の目安である30ng/mℓを下回った、という結果でした。あのハワイに住んでいる人ですらこれですから、日本はさらに欠乏している人が多いと考えられます。

日光浴はどの程度行えば効果があるか?

ビタミンDの研究で有名な米ボストン大学医学部のマイケル・ホリック博士は、「Holick's safe tantable」という紫外線浴のガイドラインを作りました。それによると、たとえば「北緯35~50度で、日本人に多い肌質」の場合、

・紫外線B波(UVB)が地表に届く季節(2月~10月)の、
・太陽が南中(12時前後)に達する前後2時間の間に、
・半袖半ズボンで15~20分の日光浴を週に2、3回行う

ことを推奨しています。一つの目安になるのではないでしょうか。

このように、日光浴には適切な地理(緯度)、季節、服装、暴露時間などの条件があるため、住んでいる地域などによってはどうしても適さないときが出てきてしまいます。また、シミやシワができやすくなったり、皮膚がんのリスクもゼロではない、などのデメリットもあります。

口から摂る場合、どの程度摂るべきなのか?

ビタミンDを口から摂る場合、ビタミンDが多く含まれる食品を利用します。

ビタミンDの多い食品

また、食生活だけでは十分に摂れないという場合は、サプリメントを利用するという手もあります。1~2粒で1日に必要な量を摂ることができます。

ビタミンDサプリメント

斎藤医師はビタミンDの摂取量について、日光浴の習慣のない成人が健康維持目的でビタミンDを摂取する場合、成人で1日2000IU(50μg)を目安にすることを推奨しています。

厚生労働省はビタミンDの耐用摂取上限(健康被害の危険がないと考えられる摂取量の上限)を、0~2歳で1日1000IU(25μg)、成人で1日2000IU(50μg)としていますが、斎藤医師は「成人が1日1万UI(250μg)の摂取で有害事例を報告する論文はない」と指摘しています。

また厚生労働省の摂取目安は成人で1日220UI(5.5μg)ですが、斎藤医師は「この摂取量だと日光浴の習慣のない人の場合に欠乏症が起きる可能性があるため、適切ではないと考えている。世界の研究者の意見を総合すると、成人で1日1000~2000IU(25~50μg)が妥当であると考える」としています。

耳鼻咽喉科の治療で改善しない場合に 

以上、アレルギー性鼻炎の原因になりうる要素として、慢性上咽頭炎とビタミンD欠乏症についてお話しました。アレルギー性鼻炎には様々な原因があります。もし耳鼻咽喉科での診察・治療でもイマイチ改善しない方はこういった原因を一度疑ってみるのも一つの手かと思います。