禁酒の方法 酒をやめるのに必要なのは「もう飲まずに済む」への意識革命
酒は人生を破壊する毒物。いきなり厳しい言い方ですが、しかしこれは私が酒について学び、禁酒に成功した後、改めて痛感したことです。
アルコール依存症の方もそうでない方も、本人が酒をやめたいと思ったとき、私たちは一体どうすれば酒をやめられるのか。自分の禁酒経験を元にまとめてみたいと思います。
酒が毒物であることを認める
酒は私たち人間にとって間違いなく毒物です。禁酒を成功させるためには、まずこれを完全に認めることが重要です。
WHO(世界保健機関)は、アルコールによって60以上もの病気・外傷が引き起こされることを報告しています。もうこの時点で酒が毒物であると断じてもいいのですが、中には「酒は適度に飲めば体にいいんだよ」「自分には酒をコントロールする知性と精神力があるから大丈夫」と言う人がいます。私も実はかつてそう思っていましたが、こういう考えが自分の根底にある限り、禁酒はまず成功しないでしょう。
実は、アルコール依存症患者には知性の高い人も多いのです。AA(アルコホーリクス・アノニマス)などの自助グループにいるアルコール依存症の人たちには、高い教育を受け、社会的地位の高い人が意外と多いです。高い精神力をもって自制し、大変な仕事・生活を立派にされてきた人もたくさんいます。
つまり、「アルコール依存症になるのは精神力の無い奴だ。だらしなくてダメな奴なんだ。自分はそうじゃないから大丈夫。絶対適度にしか飲まないから」というのは、アルコール依存症の現実を知らない人の思い込みであり、「どんな人間でも酒を適度にコントロールできる保証なんて全く無い。明日はどうなるか分からない」というのが現実なのです。
アルコール依存症が他人事でいられる人なんていません。このことから、やはり酒は人間にとって毒物であると断じるしかないのです。
いつ爆発するか分からない「爆弾」
漫画家の西原理恵子さんは、夫である鴨志田穣さんを腎臓がんで失っています。まだ42歳という若さでした。鴨志田さんはかつてアルコール依存症で、それが原因で命を縮めてしまったのです。しかし、鴨志田さんは禁酒にはしっかり成功されました。
西原さんは著書「西原理恵子月乃光司のおサケについてのまじめな話 アルコール依存症という病気」 のなかで、鴨志田さんが最初は楽しい酔っ払いに過ぎなかったと話しています。酒を飲んでも全く害の無い人だったのですね。しかしいつからかだんだん様子が変わっていき、暴言を吐いたり、ものを投げたりするようになってしまったと言います。西原さんは「アルコール依存症は、お酒を飲んでいる人が、ある日その人にだけお酒が覚醒剤になってしまう病気」と表現しています。
今までは楽しい酒だった。人に迷惑をかけることも一切なかった。そんな何も問題のなかった人が、"ある日"を境にだんだんおかしくなっていき、やがてアルコール依存症になってしまう。酒はこのような「いつ爆発するか分からない爆弾」のようなものなのです。このことからも「自分は大丈夫。今までも大丈夫だったから」という考えが全くアテにならないことが分かります。酒を飲んでいる人は、皆この爆弾を抱えながら生活しているのです。
周りの人はどう思っているのか
それでは、酒で周りに迷惑をかけるようになってしまった人のことを、家族や友人などの周りの人達はどう思っているのでしょうか。
西原さんはそういった人達からよく手紙を受け取るそうですが、その内容は
「今でも親を殺してやりたいと思っています」
「もう親は亡くなりましたが、墓をほじくり返してでも殺したいほど憎い」
「娘に漫画を見せられて(西原さんの描いた漫画)、夫が病気であることは理解できましたが、それでも私は夫を許すことができません」
など、怒りや憎しみの内容がとても多いのだそうです。
アルコール依存症は、自分の身体も自尊心もボロボロにし、周りの人を傷つけ、皆が不幸になり、そして失意の中で死んでいく。そんな残酷な病気です。そしてその病気の唯一の原因が、「酒」という毒物なのです。
「もう飲めない」から「もう飲まずに済む」に意識を変える
こうして酒が危険な毒物であること、自分や周りの人生をメチャクチャにする爆弾であること、そんなものをわざわざ金を払って飲むのは馬鹿げているということ、などを考えていくと、だんだんと自分のなかである変化が生まれてきます。それは、禁酒に対する意識の変化です。
禁酒に何度も失敗していた頃の私は、「禁酒したらもう一生酒が飲めないんだよな。つらいな。やだな」とばかり考えていました。つまり自分の中に「酒は良いもの!本当は人生を楽しくしてくれる潤滑油なんだ」という思い込みが、いぜんとしてあったのです。だからしばらく禁酒をしていると耐えられなくなります。すると、飲酒を正当化するための言い訳が必ず始まるのです。
「まあちょっと飲むだけなら何も変わりゃしないよな」
「酒は百薬の長っていって、適量ならむしろ飲んだ方がいいんだよ」
「酒飲んでストレス解消したほうが人生捗るんじゃないか」
「飲み会で自分だけノンアルコールばかり飲むのはなんか申し訳ないし」
そして結局飲んでしまい、禁酒失敗。これでは、いつまで経っても「ちょっと禁酒⇒飲む⇒ちょっと禁酒⇒飲む⇒・・・」を繰り返すだけです。
しかし、酒がいかにひどい毒物であるかを認識していくと、だんだんと酒に対して幻滅するようになっていきます。「自分は今までこんなものをありがたそうに金払って飲んでいたのかよ」と。お金を払う価値もない。飲む価値もない。今まで宝物に見えていたものが実はただのガラクタだったというふうに思えてガッカリするのですね。
すると禁酒に対する意識が「もう二度と酒が飲めないのか・・・」ではなく、「よかった、もうこれで二度と酒を飲まないで済むんだ」に変わっていくのです。こうなると、そもそも酒を飲みたくないわけですから、お決まりの飲酒を正当化する言い訳も出てこなくなります。私が禁酒に成功できたのは、この意識革命が最大のポイントだったと確信しています。
安定して禁酒できるまで意識革命を追及する
この「もう二度と飲まずに済む」という意識をより大きくするには、できるだけ詳細に酒の正体を捉える必要があります。私はそのために、主に以下の3冊から多くを学びました。
禁煙セラピーで有名なアレン・カーが書いた本。
「大人になったら酒を飲むのは普通だ」
「酒はうまい」
「適度な酒は人生を豊かにしてくれる」
「酒は人付き合いのために必要だ」
「酒は勇気を与えてくれる」
「酒は精神をリラックスさせてくれる」
私たちは子供の頃からこういった情報を吹き込まれ、洗脳されて育ってきたとアレン・カーは言います。そして、なぜこれらがただの幻想なのかを一つ一つ丁寧に解説していき、そのうえで禁酒の方法を説く。そんな本です。読み終わったとき、「なんで今まであんなに飲みたい飲みたい思っていたのか」と、夢から覚めた気分になります。
「西原理恵子月乃光司のおサケについてのまじめな話 アルコール依存症という病気」
先ほども引用した本です。アルコール依存症の夫を持った西原さんと、ご自身がアルコール依存症だった月乃さんが、それぞれの壮絶な体験を語っています。アルコール依存症の責任は実は本人ではなく、酒にあるということがよく分かります。また、アルコール依存症になるといかに自分や周りの人達が悲惨な目にあうか、その残酷さを具体的に知ることができます。
久里浜アルコール症センターの樋口進院長が監修した本。アルコール依存症の基礎知識、自分や家族が酒で困ったらどこに相談すればいいか、自助グループや病院でどんな治療をするのかなど、分かりやすく説明しています。
どこまでやれば禁酒できるかは人によって異なります。アルコール依存症と診断された人達を比べても、禁酒セラピー1冊読んだだけで禁酒できる人もいるし、専門病院に入院してノックビンやシアナマイドなどの薬を使って悶絶しながらようやく禁酒できる人もいます。
しかしどんな人であれ、禁酒に挑む人にとって共通した重要なポイントは「もう二度と飲まずに済む」という意識をできるだけ大きくしていくことです。酒を飲む必要なんてないんだということを深く理解し、酒がやめられることに喜びを見出すこと。これを追及すれば、安定した禁酒が実現します。
どんな手段を用いて禁酒をしたとしても、「もう二度と飲めないんだ」という意識のままでは、また飲んでしまう危険性が大きく残りますし、「酒を飲みたいのに飲めない」と苦しみながら生きていかねばなりません。禁酒をより安定させ、より人生を豊かにするためには、「酒をただ飲まない」「薬を使う」などの直接的方法だけでなく、自分の頭の中身そのものを変える必要があるのです。
酒と正面からまっすぐ向き合う
アレン・カーは「普通のドリンカー(アルコール依存症でない人)に「あなたは酒という薬物にコントロールされているから酒を飲んでいるのですよ」と言っても、本人はそれを認めようとしない。だから言うだけ時間の無駄」と言います。しかし私はそうは思いません。実際、私はアルコール依存症という診断を受けたことはありませんが、それでも自分の頭で酒について考え、自分なりに勉強し、そして酒をやめました。
この記事を読んでくださった方の多くは「酒をやめたい」と思っている方だと思いますが、中にはそうでない方もいらっしゃるかもしれません。酒をやめたいと思ったことは無いという方も、よかったらこれを機会に一度酒についてじっくり考えてみてはいかがでしょうか。
以上、禁酒の方法について自分の経験を踏まえてお話させていただきました。何か少しでも参考になるところがあれば幸いです。